イギリスの消費税(VAT)|20%の標準税率──その歴史と日本企業のための還付実務

英国VATの誕生──EC加盟がもたらした税制大改革

イギリスに付加価値税(VAT)が導入されたのは1973年4月1日です。これは欧州経済共同体(EEC、現在のEU)への加盟条件の一つとして、それまでの「購買税(Purchase Tax)」に代わって導入されました。購買税は一部の贅沢品にのみ課される限定的な間接税でしたが、VATはほぼすべての商品とサービスを網羅する包括的な税制です。

導入時の標準税率は10%で、軽減税率8%も同時に設定されました。当時の日本の消費税導入(1989年)より16年も早く、英国は欧州のVAT先進国としてスタートしました。なお、イギリスという名称ですがVATは連合王国全体(イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランド)で統一されたルールが適用されます。

20%の内訳──標準税率・軽減税率・ゼロ税率の
3層構造

イギリスのVATは3段階の税率構造を持っています。これは日本の消費税(標準10%・軽減8%)より細分化された制度です。

イギリスVATの税率区分(2024年)
税率区分税率主な対象
標準税率(Standard)20%ほとんどの商品・サービス
軽減税率(Reduced)5%家庭用燃料・電力、省エネ改修、子ども用カーシート
ゼロ税率(Zero-rated)0%食料品(非ケータリング)、水道水、書籍・新聞、子ども服、公共交通、処方薬
非課税(Exempt)金融・保険、教育、医療、不動産賃貸

特に重要なのはゼロ税率の存在です。ゼロ税率では消費者は税を支払わず、かつ事業者は仕入時に支払ったVATを還付請求できます。日本の「非課税取引」は仕入税額控除も不可ですが、英国のゼロ税率は事業者にとって有利な制度です。また「非課税(Exempt)」は仕入税額控除ができないため、金融機関など非課税売上比率が高い事業者はVATの還付を受けられないという問題があります。

EU離脱(ブレグジット)後のVAT──何が変わったのか

2020年1月31日のEU離脱により、イギリスのVAT制度にも複数の変更が生じました。以下は主な変更点です。

  • 外国人旅行者向けVAT還付の廃止(2021年1月1日〜):ブレグジット後、EUの付加価値税指令に縛られなくなった英国政府は、観光客向け小売輸出スキーム(VAT Retail Export Scheme)を廃止。これにより、日本人を含む外国人観光客は英国での買い物が実質10%以上割高になりました。この決定は観光産業から強い批判を受け、現在も再導入を求める声が続いています。
  • EU加盟国事業者向け電子還付の終了:EU域内のVATリファンド電子システム(MOSS/OSS)から英国が離脱し、英国でVATを支払った外国事業者の還付手続きが紙ベースに逆戻りしました。
  • EU向け輸出取引の扱い変更:EU域内向け販売が「輸出」となり、VAT免除(ゼロ税率)が適用されるように。ただし通関手続きが新たに必要になりました。

企業実務──日本企業が英国でVAT還付を受ける方法

イギリス国内でホテル代、展示会出展費用、コンサルティング料などを支払った日本企業は、高いVATを還付できる可能性があります。主なポイントは次のとおりです。

  • 対象企業:英国に事業所(PE)を持たない日本企業
  • 申請方式:紙ベースのVAT65Aフォームによる申請。HMRC(英国歳入関税庁)のウェブサイトからダウンロード可能
  • 還付対象期間:四半期または年度単位。最低還付額は年間130ポンド
  • 申請期限:還付対象期間終了後6ヶ月以内
  • 必要書類:原本の請求書(Invoice)、輸出証明書類(該当する場合)、事業内容説明書
  • 相互主義の確認:日本と英国の間にはVAT還付の相互主義が成立しているため、日本企業も還付申請が可能です

注意すべき点として、還付申請には英国VATの仕組みを正確に理解し、英文での正確な申請が求められます。誤った申請は却下されるだけでなく、その後の追徴リスクも伴うため、専門家に依頼することをお勧めします。

イギリスVATの歴史を振り返る──税率引き上げの政治

イギリスのVAT税率は、政権交代のたびに変動してきた政治的な歴史があります。

  • 1973年:10%で導入(保守党ヒース政権)
  • 1974年:8%に引き下げ(労働党ウィルソン政権の公約)
  • 1979年:15%に大幅引き上げ(保守党サッチャー政権、所得税減税の代替財源として)
  • 1991年:17.5%に引き上げ(保守党メージャー政権、人頭税廃止の穴埋め)
  • 2008年:一時的に15%に引き下げ(労働党ブラウン政権、金融危機対策の景気刺激策)
  • 2010年:17.5%に復帰
  • 2011年:20%に引き上げ(保守党キャメロン政権、財政赤字削減のため)

現在の20%は2011年から13年間維持されています。これは英国の財政規律と、政党間での増税に対する強い警戒感のバランスによるものです。

日本とイギリスの消費税比較──VAT先進国が教える教訓

日英消費税(VAT)制度比較
項目日本(消費税)イギリス(VAT)
導入年1989年1973年
標準税率10%20%
軽減税率8%(食料品)5%(光熱費等)
ゼロ税率なし(輸出のみ)食料品・書籍・子ども服等
観光客免税あり(5,000円以上)2021年以降廃止
年間課税売上基準1,000万円£85,000(約1,600万円)
申告頻度年1回(原則)四半期ごと(標準)

日本がこれから直面する課題は、社会保障費の増大に伴う税率引き上げ圧力です。イギリスの経験は、20%まで税率を上げても政治的な限界があり、それ以上の増税は極めて困難であることを示しています。またゼロ税率の拡充は低所得者対策として有効ですが、税収減と制度の複雑化という副作用もあります。

よくある質問

イギリスのVATはなぜ20%もするのですか?
イギリスのVAT 20%は欧州の主要国(ドイツ19%、フランス20%)と同水準です。EU諸国は社会保障費を主にVATで賄う傾向が強く、日本よりも消費税依存度が高いのが特徴です。イギリスは1973年のEC加盟を契機にVATを導入し、当初10%でしたが財政需要に応じて段階的に引き上げられてきました。2011年に17.5%から20%へ引き上げられて以降、現在までこの税率が続いています。
イギリス旅行で免税ショッピングはできますか?
2021年1月1日以降、イギリス(イングランド、スコットランド、ウェールズ)では、外国人旅行者向けのVAT還付制度(Tax Free Shopping)が廃止されました。これはブレグジット(EU離脱)に伴う制度変更の一環です。現在、イギリスでは店頭でVATを支払った後、空港で還付を受けることはできません。ただし、店舗から直接商品を海外へ配送する場合は、輸出取引としてVATが免除されるケースがあります。
イギリスでVATがゼロになる商品はありますか?
イギリスのVATには「ゼロ税率(Zero-rated)」というカテゴリーがあり、食料品(ケータリング・菓子類を除く)、水道水、書籍・新聞、子ども服、公共交通機関、医薬品(処方薬)が対象です。ゼロ税率は非課税(Exempt)とは異なり、事業者は販売時にVATを請求しませんが、仕入時に支払ったVATは還付請求できます。この点が金融サービスなどの完全非課税とは異なる重要な区別です。
軽減税率5%が適用されるものは?
イギリスでは家庭用燃料・電力、省エネ住宅改修工事、子ども用カーシート、生理用品(2021年からゼロ税率に移行)、禁煙補助製品に軽減税率5%が適用されます。EU時代の付加価値税指令では軽減税率の下限が5%と定められており、英国がEU離脱後もこの水準を維持しているのは、既存制度との連続性を保つためです。
日本企業がイギリスでVAT還付を受けるには?
日本企業がイギリスで支払ったVATは、HMRC(イギリス歳入関税庁)への還付申請により取り戻せます。イギリスに事業所がない外国企業の場合、「13th Directive Refund」(第13指令還付)に基づき、指定のフォームで申請します。還付申請期限は課税期間終了後6ヶ月以内で、最低還付額は年間130ポンドです。ただしブレグジット後はEU域内の電子還付システムが使えなくなり、紙ベースの申請が必要となりました。