固定残業代の正しい計算方法と労基法上の注意点【2026年】

固定残業代(みなし残業代)制度は、適切に運用すれば労務管理の効率化につながりますが、一歩間違えれば未払い残業代請求の温床にもなります。法令要件、計算方法、無効となるケースを網羅的に解説します。

重要:令和5年3月のテックジャパン事件最高裁判決により、固定残業代の「明確区分性」の要件が厳格化されました。基本給と固定残業代の金額が雇用契約書上で明確に区別されていない制度は無効と判断されるリスクが高まっています。

固定残業代制度の計算式——いくらに設定すべきか

固定残業代制度を設計するうえで最も重要なのが、適正な金額の算出です。金額を誤ると、せっかく導入した制度が無効になるだけでなく、未払い残業代の遡及請求リスクを抱え込むことになります。

固定残業代の最低必要額の計算式

固定残業代 ≧ 基礎時給 × 割増率(1.25) × 想定残業時間

ここで「基礎時給」は固定残業代を含めない基本給ベースで算出します。月給30万円のうち固定残業代5万円が含まれている場合、基礎時給の計算に使うのは25万円です。

計算例:月の想定残業を30時間とする場合

基本給320,000円(固定残業代を除く)
月の所定労働時間160時間
基礎時給320,000円 ÷ 160時間 = 2,000円
1時間あたりの残業単価2,000円 × 1.25 = 2,500円
最低限必要な固定残業代2,500円 × 30時間 = 75,000円
支給総額320,000円 + 75,000円 = 395,000円

実際の残業時間が30時間を超過した場合、31時間目からは通常の残業代計算と同様に、2,500円 × 超過時間を追加で支払います。深夜労働や休日労働が発生した場合は、それぞれの割増率を適用した差額も追加支給の対象です。

深夜手当・休日手当との関係:固定残業代に深夜割増分や休日割増分を含めることも可能ですが、その場合は「固定残業代のうち深夜割増は何時間分」「休日割増は何時間分」という内訳を明示しなければなりません。曖昧なまま一律に含めている制度は無効リスクが高いです。

適法に導入するための必須条件——就業規則と雇用契約書の
記載事項

固定残業代制度を有効に機能させるには、単に金額を決めればよいわけではありません。以下の文書整備が不可欠です。

就業規則(常時10人以上の事業場では作成・届出が必須)

  • 固定残業代制度を導入する旨の明記
  • 固定残業代の対象となる労働者の範囲
  • 想定される残業時間数(「月30時間分」など具体的な時間)
  • 固定残業代の金額または算出方法
  • 想定時間を超えた場合の追加支給に関する定め
  • 深夜労働・休日労働の取扱い(含めるか否か)
  • 欠勤・遅刻・早退の場合の減額ルール

雇用契約書・労働条件通知書

労働基準法第15条に基づき、労働者に対しては以下の事項を明示する義務があります。

  • 基本給の金額
  • 固定残業代の金額(基本給とは別個に明示)
  • 固定残業代が何時間分の時間外労働に対するものであるか
  • 固定残業時間を超過した場合の追加支給方法

とくに重要なのは「基本給」と「固定残業代」を明確に区分して表示することです。令和5年の最高裁判決(テックジャパン事件)では、給与規定上で両者が混在していたため、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分を判別できないとされ、全額が基本給とみなされました。この結果、別途残業代全額の支払いが命じられるという厳しい結論になっています。

固定残業代が無効になる4つのパターン——裁判例から学ぶ

実際の裁判例を踏まえると、固定残業代が無効と判断されるのは主に以下の4つのパターンです。

パターン1:基本給と固定残業代の区分が不明確

雇用契約書や給与明細上で「月給35万円(固定残業代を含む)」といった記載のみで、基本給と固定残業代の内訳がわからないケースです。前述のテックジャパン事件最高裁判決(令和5年3月9日)は、まさにこのパターンの代表例であり、35万円全額が基本給と認定されました。

パターン2:想定残業時間が実態と大きく乖離

固定残業代を20時間分として設定しているにもかかわらず、実際には毎月80時間以上の残業が常態化しているようなケースです。想定時間と実態があまりにかけ離れている場合、制度自体が残業代の不払いを目的としたものと判断され、無効となります。

パターン3:固定残業代の時間単価が法定割増率を下回る

固定残業代 ÷ 想定時間で算出した時間単価が、基礎時給 × 1.25に満たない場合です。たとえば基礎時給2,000円の方に月30時間分の固定残業代として70,000円(単価2,333円)を設定すると、2,500円を下回るため違法です。

パターン4:超過分の追加支払いが行われていない

実際の残業時間が想定の30時間を超えたのに、超過分を支払っていないケースです。この場合、固定残業代制度そのものが無効になるのではなく、超過分の未払いが問題となります。ただし常習的に放置していると、制度全体が形骸化していると判断され、より広範な無効判断につながる可能性があります。

よくある質問

固定残業代制度とはどのような仕組みですか?

あらかじめ一定時間分の残業代を毎月の給与に組み込んで支払う制度です。実際の残業時間が想定時間を下回っても返還不要、上回った場合は差額を追加支払います。導入には就業規則への明記と雇用契約書での基本給と固定残業代の明確な区分表示が必須です。

固定残業代を適法に導入するための条件は何ですか?

①基本給と固定残業代を明確に区分し各金額を明示、②何時間分かを明示、③時間単価が基礎時給×1.25以上であること、④超過分は追加支払いすること。これらの条件を満たさない場合、固定残業代は無効となります。

固定残業代が無効になるケースとは?

基本給との区分が不明確な場合、想定残業時間が実態と乖離している場合、時間単価が法定割増率を下回る場合、超過分を支払っていない場合が代表的です。テックジャパン事件最高裁判決(令和5年)では、区分不明確を理由に全額が基本給と認定されました。

固定残業代の時間単価はどうやって計算しますか?

固定残業代の金額 ÷ 想定残業時間で求めます。この時間単価が基礎時給×1.25を下回ってはいけません。基礎時給2,000円で月30時間分の場合、最低でも2,000円×1.25×30時間=75,000円の固定残業代が必要です。