残業85時間で労災は認められるか——認定のボーダーラインと実際の申請手続き

85時間——月100時間の基準まで残り15時間。この15時間の重みは、労災認定の現場でどのように扱われるのか。答えは「ケースバイケース」ではなく、「複数月の推移と業務の質で決まる」です。

実際に過労で倒れたり精神疾患を発症したりしたとき、労災申請は時間との勝負です。申請の遅れは認定の不利につながります。ここでは85時間という残業時間を軸に、労災認定の全体像を実務的に整理します。

脳・心臓疾患の労災認定——85時間が持つ意味

脳・心臓疾患の労災認定で最も重要な時間数は「発症前1ヶ月100時間超」です。85時間はこのラインを下回りますが、2〜6ヶ月平均で80時間を超えていれば認定の可能性が出てきます。

85時間を含む残業パターンと労災認定の見通し
残業時間の推移平均(直近3ヶ月)認定可能性
85h - 85h - 85h85時間高い。複数月平均80h超で基準充足
60h - 75h - 85h73.3時間中程度。平均80h未満だが増加傾向
85h - 95h - 105h95時間非常に高い。直近月100h超
40h - 50h - 85h58.3時間低い。単月の突出

ポイントは「85時間だけで判断しない」ことです。労働基準監督署の調査官は、必ず過去6ヶ月分の残業時間を確認します。3ヶ月連続で85時間の場合は平均85時間で基準充足。しかし普段40時間の人がたまたま85時間だった月に発症した場合、因果関係の証明は難しくなります。

精神障害の労災認定——時間数だけでは決
まらない

精神障害(うつ病・適応障害・PTSD等)の労災認定は、脳・心臓疾患とは別の基準で判断されます。心理的負荷評価表に基づき、業務による心理的負荷の強度を「強」「中」「弱」の3段階で評価し、「強」と認められれば業務起因性が認定されます。

85時間という時間数は、それ自体で「強」と評価される基準(月160時間超)には達しません。しかし以下の要素が加わると「強」となる可能性があります:生命に関わる重大な事故の処理、過大な責任の発生、会社の将来に関わる重大な判断ミス、パワーハラスメントの併存。

実際の認定事例では、残業時間が月80〜90時間程度でも、パワハラが併存していたケースで精神障害の労災が認定されています。

85時間の残業代——労災とは別に確保すべき金銭

残業85時間の残業代内訳
区分時間割増率時給1,500円での金額
月60時間まで60h25%112,500円
月60時間超25h50%56,250円
合計85h168,750円

労災申請の実務手順——5つのステップ

第1ステップ:医療機関で診断書を取得する。このとき医師に「業務との関連性」についても所見を書いてもらえるとベストです。第2ステップ:残業時間の証拠を集める。タイムカード、PCログ、メール送信履歴。第3ステップ:労働基準監督署で請求書を入手し記入する。様式は監督署の窓口または厚生労働省のウェブサイトからダウンロード可能です。第4ステップ:提出。会社を通さず直接監督署に提出して構いません。第5ステップ:調査。監督署の調査官が会社に事情聴取を行い、医学的意見を踏まえて判断します。

85時間の残業で体調を崩したなら、迷わず申請してください。「まだ100時間じゃないから」と躊躇する必要はありません。前述のとおり、複数月の平均や業務の質によっては85時間でも認定されます。

よくある質問

85時間残業で倒れたのに会社が労災を認めてくれません。どうすれば?
労災認定は労働基準監督署が行うもので、会社に拒否権はありません。会社が非協力的でも、労働者本人が直接監督署に請求書を提出できます。会社が「過労ではない」と主張してきた場合も、最終的には監督署の調査と医学的見地から判断されるため、諦めずに申請してください。
労災認定された場合、85時間分の残業代は別途請求できますか?
労災保険給付(休業補償給付・障害補償給付等)と残業代は別の制度です。労災認定の有無にかかわらず、85時間分の残業代が未払いであれば別途請求する権利があります。両者は並行して請求可能であり、一方が他方を妨げる関係にはありません。
85時間残業で精神科に通院中。労災申請するタイミングは?
できるだけ早く申請することをお勧めします。精神障害の労災申請には時効(発症から5年、診断確定から2年等の解釈あり)があります。通院中であれば医師の協力を得やすいため、早めに診断書の作成を依頼し、申請準備を始めてください。療養中に申請しても問題ありません(むしろ療養中の申請が一般的です)。
フリーランスで85時間相当働いています。労災は適用されますか?
フリーランス(個人事業主)は原則として労災保険の対象外です。ただし、実質的に雇用関係にあると認められる「偽装フリーランス」の場合は、労働者性が認められ労災保険が適用される可能性があります。また、2024年11月からはフリーランスにも特別加入制度の対象業務が拡大されています。ITフリーランスの方は特に確認をお勧めします。