営業職の残業代——みなし労働時間制と営業手当の法的注意点

営業職は、残業代問題が最も発生しやすい職種の一つです。「営業は外回りだから労働時間の管理ができない」という理由で事業場外みなし労働時間制が適用されるケースが多く、これが適正に運用されていないと、実質的なサービス残業を強いる違法状態に陥ります。営業職の方こそ、自らの残業代の権利を正しく理解する必要があります。

営業職の残業代——3つの要注意ポイント
1. 事業場外みなし労働時間制の適用条件を満たさない「名ばかりみなし」は違法
2. 営業手当やインセンティブが残業代の代わりになることはない
3. 内勤(社内での事務作業)の時間はみなし労働時間の対象外——別途残業代が必要

事業場外みなし労働時間制——適用の厳格な要件

営業職に適用される事業場外みなし労働時間制(労働基準法第38条の2)は、「事業場外で労働する場合で、労働時間の算定が困難なとき」に、所定労働時間働いたものとみなす制度です。しかし、以下の要件をすべて満たさなければ適用できません。

(1)事業場外で労働すること——外回りの営業活動自体は該当しますが、社内での事務処理、会議、研修、報告書作成などは「事業場内」の労働であり、みなしの対象外です。(2)労働時間の算定が困難であること——GPSや携帯電話の位置情報、日報、営業報告書などにより労働時間の把握が可能な場合は「算定困難」に該当しません。近年のテクノロジー発達により、この要件を満たすケースは大幅に減少しています。(3)労使協定の締結——事業場外みなし労働時間制を採用するには、過半数代表者との労使協定締結が必要です。会社が一方的に「うちは営業職はみなしだから」と宣言するだけでは無効です。

営業手当と残業代——混同しては
いけない

「営業手当」という名称で毎月一定額が支払われている場合、これが残業代の代わりになるかどうかは支給実態によります。営業手当が「営業活動に必要な経費の補填」や「営業成績に応じたインセンティブ」であれば、それは残業代ではなく、別途残業代を支払う義務があります。営業手当が「固定残業代」として適法に設定されているためには、(1)基本給と明確に区別されていること、(2)何時間分の残業代なのかが明示されていること、(3)その時間を超えた残業に対しては別途支払われることが条件です。

具体的な営業職の残業代シミュレーション

例えば、基本給25万円+営業手当3万円の営業職で、月所定労働時間160時間(基礎時給1,563円)、実残業時間が月40時間(うち内勤残業10時間)の場合:内勤10時間分は事業場外みなしの対象外であるため、法定外残業として1,563×1.25×10=19,538円の残業代が発生します。外回り部分の30時間分はみなし労働時間に含まれるとしても、営業手当3万円が30時間分の残業代相当額(1,563×1.25×30=58,613円)を大きく下回っていれば、差額28,613円の未払い残業代が発生していることになります。

よくある質問

営業職は「みなし労働時間制」だから残業代は出ないと会社に言われました。本当ですか?
一部正しく、一部間違いです。事業場外みなし労働時間制が適法に適用されている場合、外回り営業時間については所定労働時間働いたとみなされます。しかし、社内での事務作業、会議、研修などはみなしの対象外で、法定時間を超えれば残業代が発生します。またGPS等で労働時間管理が可能な場合は、そもそもみなし自体が違法です。
営業手当を「残業代の代わり」として支払うのは適法ですか?
営業手当が固定残業代として適法に設計されている場合に限り有効です。具体的には、(1)固定残業時間数が明確に示されていること、(2)固定時間を超える残業代が別途支払われること、(3)割増率が正しく適用された金額であることが必要です。単に「営業手当3万円で残業代はすべて含まれている」という説明はまず違法です。
営業車での移動時間は残業代の対象になりますか?
原則として、移動時間は「使用者の指揮命令下」にあれば労働時間に含まれます。営業先から営業先への移動は通常労働時間です。一方、自宅から最初の営業先への移動(通勤時間)は労働時間ではありません。営業先から直帰する場合の移動時間も、帰宅途中であれば労働時間から外れるのが一般的です。
休日や深夜の接待は残業代の対象ですか?
取引先との接待や会食が「業務として義務付けられている」場合は労働時間に該当し、残業代の対象となります。特に深夜(22時以降)に及ぶ場合は深夜割増(+25%)も適用されます。任意参加の親睦会は対象外ですが、「任意」と言いながら実質的に参加を強制されている場合は労働時間と認定される可能性があります。
営業成績が悪いと「残業代を払う余裕がない」と言われました。これってアリですか?
まったくアリではありません。残業代は「すでに提供した労働」の対価であり、会社の業績とは無関係に支払い義務が発生します。業績不振を理由に残業代を不払いにすることは、賃金の全額払い原則(労基法第24条)違反です。

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