変形労働時間制と残業代——1ヶ月単位・1年単位・フレックスタイム制の割増賃金

変形労働時間制とは、一定期間(1ヶ月または1年)の労働時間を平均して週40時間以内に収めることを条件に、特定の日や週に法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えて労働させることができる制度です。この制度は、季節や曜日によって業務量が変動する業種(ホテル、飲食店、観光施設等)で主に利用されていますが、正しく理解せずに運用すると、意図せず残業代の未払いを発生させるリスクがあります。

変形労働時間制の種類と概要
- 1ヶ月単位の変形労働時間制(労基法第32条の2):1ヶ月以内の変形期間
- 1年単位の変形労働時間制(労基法第32条の4):1ヶ月超〜1年以内の変形期間
- 1週間単位の変形労働時間制(労基法第32条の5):30人未満の小売業・旅館等に限定
- フレックスタイム制(労基法第32条の3):清算期間における総労働時間の枠内で、始業・終業時刻を労働者が決定

1ヶ月単位の変形労働時間制——残業代が発生するタイミング

1ヶ月単位の変形労働時間制では、以下の場合に割増賃金が発生します。

1ヶ月単位の変形労働時間制における割増賃金発生条件
発生条件割増率具体例
変形期間の総枠を超えた労働+25%〜+50%月の総所定労働時間を超過した部分
1日8時間超(変形期間で所定が8時間超の日はその所定時間まで割増不要)+25%変形スケジュールで10時間労働と定めた日は10時間まで割増なし(変形の効果)
週40時間超+25%但し変形期間全体で見るため、週単位での割増判断は複雑
法定休日労働+35%週1日の法定休日は必ず確保が必要(変形制でも例外なし)
深夜労働(22時〜5時)+25%変形制でも深夜割増は常に発生(変形の効果なし)

変形労働時間制の最大の注意点は「深夜割増」と「法定休日割増」です。これらは変形労働時間制の効果では免除されず、無条件で適用されます。変形制だからといって深夜の割増率が変わるわけではありません。

変形労働時間制の実務
的計算例

例えば、1ヶ月単位の変形労働時間制で、ある週の所定が月8時間・火10時間・水8時間・木10時間・金8時間・土0・日0(合計44時間)と定められている場合:週40時間を4時間超えていますが、月全体の総枠(変形期間の法定総労働時間)に収まっていれば、この4時間に対する割増賃金(時間外+25%)は発生しません——これが変形労働時間制の効果です。しかし、月の総枠が168時間(4週の場合)で、実際の労働が175時間だった場合、超過7時間には+25%の割増が適用されます。また月60時間を超えた部分には+50%が適用されます。

よくある質問

変形労働時間制では残業代が出ないのですか?
出る場合と出ない場合があります。変形期間の総枠内であれば、特定の日や週の長時間労働には割増賃金が発生しません。しかし、総枠を超えた部分、深夜労働、法定休日労働には通常どおり割増賃金が発生します。「変形制だから残業代は一切出ない」という理解は誤りです。
フレックスタイム制でも残業代は出ますか?
フレックスタイム制では、清算期間の総所定労働時間を超えた労働に対して割増賃金が発生します。また月の総労働時間が法定労働時間の総枠を超えた場合も割増の対象です。深夜労働についても通常どおり+25%が適用されます。フレックス制の特徴は「1日の所定労働時間超過」の概念がないことですが、清算期間の総枠超過には注意が必要です。
変形労働時間制はどんな会社が導入できますか?
1ヶ月単位の変形労働時間制は、就業規則または労使協定で定めれば、業種を問わず導入可能です。1週間単位の変形労働時間制は、常時使用する労働者数が30人未満の小売業・旅館・料理店・飲食店に限定されます。1年単位の変形労働時間制は労使協定の締結・届出が必要です。
変形労働時間制でも36協定は必要ですか?
変形労働時間制で法定労働時間の総枠を超えて労働させる可能性がある場合は、36協定の締結・届出が必要です。変形制を導入していても、臨時の業務増加などで変形期間中の総枠超過が見込まれる場合は、別途36協定を結んでおく必要があります。
1年単位の変形労働時間制で、月に80時間労働の月と40時間の月がある場合、80時間の月に残業代は発生しますか?
その80時間が変形カレンダーで事前に定められた所定労働時間であり、1年全体の総枠(週40時間×年52週=2,085時間/年をベースに算出)に収まっている限り、割増賃金は発生しません。ただし、1日8時間を超える部分が週40時間を超えるかどうかも判定され、1年単位の変形制では週40時間の判定は変形期間(年)単位で行うため、週単位での割増は発生しません。

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