残業代と賃金——未払い賃金の請求と労基法の罰則

残業代は労働基準法第11条で定義される「賃金」に含まれます。同条では、賃金とは「賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのもの」とされています。つまり、残業代は名称が「手当」であれ「報酬」であれ、法律上の賃金であり、未払いがあれば賃金未払いとして労働基準法第24条(賃金支払いの5原則)および第120条(罰則:30万円以下の罰金)の適用対象となります。

賃金と残業代の関係で最も重要な概念は「平均賃金」です。平均賃金は、解雇予告手当や休業手当、労災保険給付の算定基礎となる金額で、算定事由発生日以前3ヶ月間に支払われた賃金総額をその期間の総日数で除して算出します。この「賃金総額」には残業代も含まれます。つまり、残業が多い月が直近3ヶ月にあれば平均賃金が高くなり、結果として解雇予告手当や休業手当の額も増加するのです。多くの労働者が見落としがちなポイントですが、残業代の未払いは単にその月の収入が減るだけでなく、将来の各種手当にも悪影響を及ぼします。

賃金に含まれるもの・含まれないもの
含まれる:基本給、残業代、休日出勤手当、深夜手当、通勤手当、住宅手当、家族手当(※残業代計算の基礎賃金からは除外されるが、賃金総額には含まれる)
含まれない:賞与(ただし3ヶ月を超える期間ごとに支払われるもの)、退職金、見舞金、慶弔金

賃金支払いの5原則と残業代

労働基準法第24条は、賃金支払いに関して以下の5原則を定めています。残業代もこの原則に従わなければなりません。

賃金支払いの5原則と残業代
原則内容残業代への適用
通貨払いの原則通貨(現金)で支払う労働者の同意があれば銀行振込も可
直接払いの原則労働者本人に直接支払う家族や代理人への支払いは原則不可
全額払いの原則全額を支払う源泉徴収や社会保険料を除き、一部でも控除すれば違法
毎月1回以上払いの原則毎月1回以上支払う残業代を数ヶ月まとめて支払うことは原則違反
一定期日払いの原則期日を定めて支払う「売上が上がったら支払う」などの条件付きは違法

実務上よく問題になるのが「全額払いの原則」と残業代の関係です。例えば、会社が「今月は業績が悪いから残業代を3割カットする」と一方的に決めることは、たとえ労使協定があっても認められません。残業代は労働者がすでに提供した労働の対価であり、事後的な減額は許されないのです。

未払い残業代の請求——賃金とし
ての保護

未払い残業代は、法律上「未払い賃金」として強力に保護されています。まず、賃金請求権には一般債権より優先する先取特権が認められています(民法第308条)。これは、会社が倒産した場合でも、他の債権者に優先して未払い賃金を回収できる権利です。退職手当を除く最後の6ヶ月分の賃金については、一般の先取特権が認められています。

また、賃金未払いに対するペナルティとして、労働基準法第114条の付加金制度があります。裁判所が未払い賃金の支払いを命じる場合、未払い額と同額以下の付加金の支払いも命じることができます。例えば100万円の未払い残業代が認定されれば、さらに最大100万円の付加金が上乗せされる可能性があります。これは使用者に対する制裁的な意味合いを持つ制度で、労働審判や訴訟において積極的に主張すべきポイントです。

よくある質問

残業代は「賃金」として法律上どのような保護を受けますか?
残業代は労働基準法第11条の「賃金」に該当し、全額払いの原則(第24条)の保護を受けます。また民法上の先取特権(第308条)により、会社倒産時にも優先的に回収できる権利があります。未払い残業代の請求には付加金(労基法第114条)も利用可能で、制裁的な追加支払いを裁判所に命じてもらえます。
残業代が未払いの場合、遅延損害金は請求できますか?
はい。未払い残業代には、支払期日の翌日から支払い済みまで、商事法定利率(現在は年3%)による遅延損害金(遅延利息)を請求できます。また退職後は年14.6%の割合による遅延損害金が発生するケースもあります(賃金の支払の確保等に関する法律第6条)。これは退職後に未払い賃金の支払いを促すための規定です。
残業代が支払われないのはどのような場合に違法になりますか?
すべての場合において違法です。法定労働時間を超えた労働があれば、割増賃金の支払いは義務です。「管理職だから」「みなし残業代に含まれているから」「会社の業績が悪いから」といった理由で支払いを免れることはできません。ただし、適法な固定残業代制度(基本給と明確に区別され、超過分が追加支払いされる)は合法です。
残業代の未払いがあっても在職中は請求しにくいです。退職後に請求できますか?
はい、退職後でも請求可能です。むしろ退職後の方が、会社との力関係を気にせず請求できるというメリットがあります。時効(当面3年、最大5年)に注意して、退職後できるだけ早く内容証明郵便で請求書を送付することをお勧めします。
賃金と残業代で「平均賃金」の計算はどう変わりますか?
平均賃金の算定には残業代も含まれます。つまり、残業代が正しく支払われていないと、平均賃金が実際より低く算出され、解雇予告手当(平均賃金の30日分以上)や休業手当(平均賃金の60%以上)などの金額も不当に低くなります。残業代未払いは、このように連鎖的な不利益を労働者にもたらします。

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