課税所得計算の全貌——年収600万円の会社員を例に14の所得控除を適用する
所得税は「収入」ではなく「課税所得」にかかる。この当たり前の事実を理解しているだけで、税の見え方が変わる。本稿では年収600万円・東京都・35歳・配偶者+子1人(19歳・特定扶養親族)の会社員をモデルに、収入から課税所得に至るまでの全段階を数値で追いかける。
フェーズ1——収入から給与所得へ。給与所得控除の計算
課税所得計算の第一段階は「収入を所得に変換する」こと。会社員の場合、これは給与所得控除によって自動的に行われる。
| 給与等の収入金額 | 給与所得控除額 | 控除後金額の計算式 |
|---|---|---|
| 1,625,000円以下 | 550,000円 | 収入−550,000(最低保証) |
| 1,625,001〜1,800,000 | 収入×40%−100,000 | 収入×60%+100,000 |
| 1,800,001〜3,600,000 | 収入×30%+80,000 | 収入×70%−80,000 |
| 3,600,001〜6,600,000 | 収入×20%+440,000 | 収入×80%−440,000 |
| 6,600,001〜8,500,000 | 収入×10%+1,100,000 | 収入×90%−1,100,000 |
| 8,500,001以上 | 1,950,000(上限) | 収入−1,950,000 |
モデルケース(年収600万円)の計算:6,000,000 × 20% + 440,000 = 1,640,000円が給与所得控除。給与所得は 6,000,000 − 1,640,000 = 4,360,000円。これが所得税計算のスタートラインになる。
フェーズ2——給与所得から課税所得へ。14種類の所得控除を適用する
ここからが課税所得計算の本番。適用可能なすべての所得控除を積み上げる。
| 控除の種類 | 控除額 | 根拠 |
|---|---|---|
| 基礎控除 | 480,000円 | 合計所得2,400万円以下は全額控除 |
| 配偶者控除 | 380,000円 | 配偶者の合計所得48万円以下、本人の合計所得900万円以下 |
| 扶養控除(特定) | 630,000円 | 子19歳〜22歳は特定扶養親族、63万円控除 |
| 社会保険料控除 | 890,000円 | 年間の健康保険・厚生年金・雇用保険の本人負担総額 |
| 生命保険料控除 | 40,000円 | 一般生命保険料年8万円支払→4万円控除(新制度) |
| 地震保険料控除 | 25,000円 | 地震保険料年3万円支払→控除 |
| 所得控除合計 | 2,445,000円 |
課税所得 = 給与所得 4,360,000 − 所得控除合計 2,445,000 = 1,915,000円(千円未満切捨)。年収600万円でも、課税所得はわずか191万円まで圧縮されている。
フェーズ3——課税所得に税率を適用して税額を算出する
課税所得191.5万円は超過累進税率の最初の区分(〜195万円・税率5%)に入る。
| 計算ステップ | 計算式 | 金額 |
|---|---|---|
| 課税所得 | (上記計算) | 1,915,000円 |
| 所得税(基準) | 1,915,000 × 5% | 95,750円 |
| 復興特別所得税 | 95,750 × 2.1% | 2,010円 |
| 年税額合計 | 97,760円 | |
| 住民税(概算) | 課税所得×10%+均等割5,000 | 約196,500円 |
| 税負担総額 | 約294,260円 |
税負担総額は年収の約4.9%。「年収600万円なら税率20%で120万円の所得税」という誤解がいかに大きいか、数字が明確に示している。6種類の控除を適切に適用した結果、所得税の実効税率は1.6%にまで圧縮された。
よくある質問
- 課税所得がマイナスになったらどうなりますか?
- 課税所得が0円以下(マイナス)の場合、所得税は0円となります。ただし、マイナス分を翌年以降に繰り越すことはできません(純損失の繰越控除は事業所得など特定の所得区分のみ)。また、課税所得が0円でも、住民税の均等割(市区町村民税3,500円+都道府県民税1,500円=計5,000円程度)は発生する場合があります。
- 給与所得控除と所得控除の違いがよく分かりません。
- 給与所得控除は「収入を所得に変換する」ための控除で、サラリーマンの必要経費に相当します。全員一律に適用され、個別の申請は不要です。一方、所得控除は「個人の事情を税額に反映する」ための控除で、扶養家族の有無や保険料支払い額など個人の状況に応じて金額が変わります。年末調整の書類で申請が必要なのは主に所得控除の方です。
- iDeCoの掛金は課税所得計算のどこで控除されますか?
- iDeCoの掛金は「小規模企業共済等掛金控除」として所得控除の一種になります。掛金全額が課税所得から控除されるため、たとえば月2万円(年24万円)の拠出で、所得税率5%なら12,000円、住民税10%なら24,000円の節税効果があります。年末調整ではiDeCoの掛金は自動反映されないため、会社員の場合は「年末調整」ではなく「確定申告」が必要です(令和7年も同様)。