手取り計算の核心——控除額をゼロから自分で計算する技術

「手取りっていくらになるの?」という質問に正確に答えられる人は意外に少ない。それもそのはず、控除額の計算には6種類以上の異なるルールが絡み合っているからだ。本稿では令和7年(2026年)の最新制度に準拠し、社会保険料・所得税・住民税それぞれの計算式を分解していく。電卓さえあれば、あなたの手取りを自分で導けるようになるはずだ。

控除の全体像——6つの法定控除をマッピングする

まず全体を俯瞰しよう。給与から控除される法定項目は以下の6つに分類される。

法定控除一覧(令和7年度・一般企業・協会けんぽ想定)
控除項目計算基準負担保険料率(本人)備考
健康保険料標準報酬月額約5.0%(都道府県別)協会けんぽの場合・事業主と折半
厚生年金保険料標準報酬月額9.15%(固定)事業主と折半、上限65万円
雇用保険料実際の給与額0.6%(一般事業)労使折半、業種別の差異あり
介護保険料標準報酬月額約0.9%40〜64歳のみ徴収
源泉所得税課税所得超過累進税率(5%〜45%)扶養人数により調整
住民税前年の課税所得一律10%+均等割6月から翌年5月まで分割徴収

ここで重要なのは、社会保険料は「標準報酬月額」、所得税は「課税所得」、住民税は「前年所得」と、三者三様の基準額に基づいていることだ。同一人物であっても、月によって控除額が変動する理由がここにある。

標準報酬月額の決まり方——あなたの等級は
いくつか

社会保険料計算の基軸となる標準報酬月額は、毎年4月・5月・6月に支払われた給与の平均額を基に、等級表に当てはめて決定される(定時決定)。令和7年度も基本的な仕組みは不変だ。

標準報酬月額表(主要等級・協会けんぽ)
等級標準報酬月額報酬月額の範囲健康保険料(本人・東京)厚生年金(本人)
19級200,000円195,000〜210,00010,000円18,300円
22級260,000円250,000〜270,00013,000円23,790円
26級320,000円310,000〜330,00016,000円29,280円
30級410,000円395,000〜425,00020,500円37,515円
35級530,000円515,000〜545,00026,500円48,495円

この等級によって、同じ月収30万円でも「残業代の多寡」で等級が26級から28級に跳ね上がり、社会保険料が数千円変わる。定時決定の前月(3月〜5月)に残業をセーブすると、9月以降の保険料が下がる、という逆説的な節約術も存在する。

控除額を自分で計算する——4ステップ実践ガイド

では、実際に計算してみよう。モデルケース:月収35万円、東京都、35歳、扶養家族1人(配偶者)、年収ベース420万円。

Step1: 社会保険料の計算
標準報酬月額:340,000円(28級想定)
健康保険料:340,000 × 5.0% = 17,000円
厚生年金:340,000 × 9.15% = 31,110円
雇用保険:350,000 × 0.6% = 2,100円
介護保険:対象外(35歳)
社会保険料合計:50,210円
Step2: 給与所得控除の計算
年収420万円 → 給与所得控除=4,200,000 × 20% + 440,000 = 1,280,000円
給与所得:4,200,000 − 1,280,000 = 2,920,000円
Step3: 課税所得の導出
給与所得 2,920,000 − 基礎控除 480,000 − 社会保険料控除(年額)602,520 − 配偶者控除 380,000
= 課税所得 1,457,480円
(1,000円未満切捨てで 1,457,000円)
Step4: 所得税の計算
課税所得 1,457,000円 → 税率5%(〜195万円)
所得税年額:1,457,000 × 5% = 72,850円
月額源泉所得税:約6,070円

こうして月額手取りは 350,000 − (50,210 + 6,070 + 住民税約14,000) ≈ 約279,720円 となる。最初は面倒に感じるが、一度テンプレート化すれば毎年の再計算も容易だ。

よくある質問

賞与(ボーナス)の控除計算は月給とどう違うのですか?
賞与の社会保険料計算は月給と同じく標準報酬月額ではなく「標準賞与額(支給額の1,000円未満切捨て、上限あり)」を基準にします。健康保険は年度累計573万円、厚生年金は月150万円が上限。所得税は月給と異なり「前月の給与」を基準に税率が決まる算出率表が使われます。月給と同じ計算式を当てはめられない最大の理由です。
控除額が月によって変動するのは正常ですか?
はい、正常です。主な変動要因は①4月の介護保険料発生②6月の住民税改定③9月の定時決定による保険料変更④通勤手当など非課税手当の増減⑤残業代変動による源泉所得税への影響⑥年末調整の還付・追徴による12月給与の変動です。月次の振れ幅が一定範囲に収まっていれば問題ありません。
標準報酬月額が実態より高い(または低い)場合の修正方法は?
標準報酬月額と実際の給与に2等級以上の差がある場合、「随時改定(月額変更届)」の対象となります。具体的には、固定的賃金(基本給)の変動があり、かつ3ヶ月連続で報酬月額が従来の等級から2等級以上外れた場合、事業主は年金事務所に月額変更届を提出する義務があります。放置すると過剰な保険料を払い続けることになるため、該当する場合は速やかに総務に申し出ましょう。

関連ページ