みなし残業代制度——適法と違法の境界線

みなし残業代(固定残業代)とは、あらかじめ一定時間分の残業代を月給に含めて支払う制度です。求人票で「残業代20時間分込み」といった記載を見たことがある方も多いでしょう。制度自体は労働基準法に反するものではありませんが、運用方法によっては違法となるケースがあります。本記事では、適法な固定残業代の条件、みなし時間の設定方法、違法になりがちな運用パターンまでを詳しく解説します。

みなし残業代制度の仕組み

みなし残業代の仕組みは、基本給とは別に「固定残業手当」として一定額を支払い、その中に決められた時間数(たとえば月20時間)分の残業代を含めるというものです。実際の残業が固定時間以下の場合は、固定残業手当で相殺されますが、固定時間を超えた分は追加で支払わなければなりません

メリットは、給与が安定しやすく、会社側も残業代の算定事務を軽減できる点です。デメリットは、残業が少ない月でも固定残業代は支払われ、逆に残業が多い月は超過分がきちんと支払われないと損をする点です。

適法な固定残業代の3
つの条件

固定残業代が適法と認められるには、以下の条件を満たす必要があります。

固定残業代のポイント

・固定残業手当=基礎時給×割増率×固定残業時間の適正額以上であること

・固定時間を超えた残業分は追加で支払う義務があること

・固定残業代を控除対象にする場合は時間数や計算方法の明示が必要なこと

違法になりがちな運用パターン

実際に問題になりやすいのは、次のようなケースです。

「残業代込み」とだけ記載して、時間数を明示しない場合。この場合、みなし残業代そのものが認められず、すべての時間外労働について通常の残業代の支払い義務が発生します。②固定残業代が適正額を大幅に下回っている場合。たとえば時給1,500円で固定残業20時間の場合、適正額は約37,500円ですが、これが20,000円しか支払われていなければ差額の請求ができます。③固定時間を超えても追加で支払わない場合。これは未払い残業代として違法です。

※「みなし」という名称から、残業時間の実績に関係なく一定額だけ払えばよいと誤解されがちですが、あくまで最低保障を固定化した制度であり、実際の労働時間に応じた割増賃金の支払い原則は変わらない点に注意してください。

固定残業代の金額が適正か確認する方法

自分の固定残業代が適正かどうかは、以下の手順で確認できます。まず、給与規程や労働契約書で固定残業時間を確認します。次に、基本給と諸手当の合計を所定労働時間で割って基礎時給を求め、「基礎時給×1.25×固定残業時間」で適正額を計算します。最後に、給与明細の固定残業手当と比較して、下回っていないか確認しましょう。

また、固定残業代が残業代の計算基礎(基礎賃金)から除外されている場合は、深夜割増や休日割増の計算が過少になる問題もあります。計算に不安がある場合は、残業代計算ツールや労働組合、弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。

よくある質問

みなし残業代は「何時間働いてもこの金額だけ」という意味ですか?
いいえ、違います。みなし残業代は「一定時間分の残業代をあらかじめ給与に含める」制度で、その固定時間を超えた残業分については、通常の割増賃金(+25%以上)を追加で支払う義務があります。固定時間内であっても、実際の残業時間が固定時間を大きく下回っている月の扱いは労使で定めることができます。
「残業代込み」の給与だけど、何時間分か分かりません。これは違法ですか?
固定残業代として認められるには、基礎賃金と区別され、固定残業時間と計算方法が明示されている必要があります。時間数が不明な「残業代込み」の給与はみなし残業代として認められず、実際の時間外労働すべてについて通常の割増賃金の支払いが必要になる可能性が高いです。給与規程や労働契約書を確認し、明示されていなければ会社に確認を求めましょう。
固定残業時間が30時間と長い会社は危険ですか?
固定残業時間が長いほど、実際の残業時間がそれを下回る月でも高額な手当が支払われ、超過分の追加支払いの可能性も高まるため、残業の常態化や割増率の引き下げの懸念があります。また月60時間を超える残業では1.5倍の割増が必要になるため、適正額の検証と超過分の支払い状況を必ず確認してください。